「もう何時間待ったのだろう。半日は経とうとしている。待ち合わせを忘れたんじゃねえだろうか、という不安が募る中、俺は一人この橋で橙次を待っている。
何度も女に声をかけられて、俺のストレスも限界に来ていた。怒りの矛先は勿論、俺を待たせている橙次に行くわけで、どうぶっ飛ばしてやるかを考え続けていた。近くの石ころを思いっきり川へ投げ入れていると、町の方から歩いてくる橙次を見つけた。するとどうだろう、さっきまでイライラしていたのがどっかへ行っちまった気がした。…いやそんな気がしただけでイライラはしている。俺は石ころを橙次の横目掛けて投げつけた。

「遅っせえぞ、橙次」
「あー悪い悪い」
「全然悪いって思ってねえだろうがてめェはよ!ったくどれだけ待たせりゃ気が済むんだよ」


待ってるこっちが馬鹿みてえじゃねえか、と舌打ちすれば、橙次は笑って俺の髪を軽く撫でるだけだった。少し香る女の匂いが俺の神経をより苛立たせる。
俺は何だかんだ言って几帳面な性格なのだとあのブス女(里穂子)が言っていた。まあそうだろう、待ち合わせにはちゃんと時間を守るし、呼び出されてもすぐに飛んでいく。なんだって俺は空の藍眺さまだからな。そんぐれぇできなくてどうするんだって話だ。いい加減女関係も清算しやがれこの馬鹿。
どこで何してやがったんだ橙次、言い訳して見ろよと怒鳴り散らせば、またコイツはへらへら笑って言うのだ。

「そんな憎まれ口叩いても、藍眺が待っててくれるって信じてたから」
「な、テメっ…」

俺は何だかんだ言ってコイツに甘すぎる。それは自覚している。俺も馬鹿だってことなのだ。
何でコイツが忍空組のリーダーだったのか。実力よりも、俺はこの「人たらし」なところだと思う。どんな奴でも自分の懐に入れて、暖めてくれるような、やさしい心を持ってる。俺が忍空を目指したのも、コイツの魅力があったことは隠しきれない。俺は橙次を心から信頼してる。だから待ってる。もういい大人だというのに、雛鳥みてえなそんな感覚でここにいる。俺にとって橙次はかけがえのないモンだ。
そんな思い出を考えている間に、橙次は慣れた手つきで俺の腰に手を回して、唇をその指で撫でる。その行為に俺はカッと来て、ぶっ飛ばすぞと叫び、首をヘッドバット食らわす勢いで振り上げると、それを橙次の両手ががっちり捕まえ、そしてこう言うのだ。

「俺はお前を信じてるよ、藍眺。いってきます」

橙次の唇が俺に触れる。これがキスだと気づくのに数秒の時間を要した。何でコイツは俺にキス何てしてんだ?
俺がはっとした時には橙次は既に歩き出していた。

「あ、おいもう行くのかよ」
「タバコだよ、タバコ」

ちょっと待っててくれと橙次は言い、俺はその場に座り込む。そして矛盾点に気が付いた。アイツはタバコを吸ってねえ。何故ならさっきのキスで、そんな味はしなかったから。

(そんなかわいい顔するんじゃねーよ、食いたくなるだろうが)

20120511 4話拡大妄想 title:1204さま
関係ないけど4話の手配書には
あいちょ17、とーじ19、ふうすけ12になってるよね年齢