「さむ」
「そりゃそうだろ。服着ろよ」
「てめェにだけは言われたくねえ台詞だな」

俺たちは風水道を探して雪山を登っている途中だ。あの橙次でさえもっこもこした服を着て、帽子も被っている。なんだか違和感を感じるのは俺だけだろうか。しかし俺はいつものタンクトップとジーパンで過ごしている。寒いのは割と平気のようだ。いや寒いのは寒いがな。
しかしながら風助はずっと鼻水垂らしてるし、里穂子はうわ言ばかり言うようになった。元気なのはヒロユキだけだ。俺たちは時々こいつがペンギンだってことを忘れてる。

「さむーい、里穂子もうげんかーい、死んじゃう藍眺さァーん」
「うっせえ死ね」
「もう藍眺さんひどーい…そんな藍眺さんも…」
「ああ、おいドブス!」
「ほんとに里穂子倒れちまったぞ(ズルズル)」
「はァ仕方ねえな、今日は休めるところ探すか」

壊れかけた小屋を見つけ、その中へ入る。里穂子と風助は暖炉へと飛びついた。俺は建物内を捜索する。どうやら山小屋として使われていたようで、部屋もいくつか存在した。雪で入口しか見えなかったが、案外大きい建物だったようだ。薪のありかを見つけ、持って暖炉のところへ戻ると、ヒロユキが窓から外を見ている。

「でべー」
「なんだヒロユキ、外出たいのか」
「でべ!でべでべっ!」
「そうか、じゃあ雪合戦でもするか!」
「でべェ!!」
「ちょっと待て。かなりの吹雪だ、雪合戦は明日にしろ、二人とも」

折角のお遊びも橙次に止められてしまう。どん底くらいに落ち込むヒロユキがかわいそうだった。明日やろうな、と声をかけると、ヒロユキは喜んで、風助とベットのある部屋に向かった。里穂子はすでに姿がなく、橙次によれば疲れて眠ったので部屋に運んだらしい。
俺と橙次は暖炉番をしながら座っていた。橙次はいつもの服装(シャツ姿)に戻っていた。

「参ったな、この吹雪じゃ前が見えない」
「山小屋があってラッキーだぜ」
「ほんとそうだな」

今日はゆっくりするかー、と橙次が眠そうにあくびをする。俺は隣の部屋から薪を取ってきて暖炉にくべる。少し湿気ていて、いくつかは暖炉近くで乾かしていた。暖炉前のソファで橙次がうとうとしている。もう寝たらどうだ、と声をかけても橙次は寝息を立てるだけだった。そういえば橙次の寝顔なんてあんまり見たことねーな、と思い、俺はその横に座って、大きく伸びをする。両腕をぐっと伸ばし、大あくびをしたその時だった。橙次が俺の両手首を掴んで押し倒してきた。

「ふぁあっ、な、何すんだ橙次!」
「だから服着ろって言ってんだろ」
「いや寒くねェって言ってんだろうが」
「冷たい」

橙次はきっぱりと真剣な顔で言い放つ。俺は両手を塞がれて、足は使えるがこのまま蹴ると少々やっかいだと思ったので、蹴らずに、でも抵抗はする。何でコイツは俺を押さえつけているんだ。離せよ橙次、と言うと俺の手首を開放し、橙次は服を脱ぎだした。そんなことは俺は望んでねェぞ!

「ば、バカ何やってんだ橙ッ」
「いーから着てろ!」

ピンクのシャツを俺に無理やり着せる。俺にはひどく似合わないその色。しかもちょっとデカくてなんか悔しい気持ちになる。まじまじと服を見ている間に橙次は俺を後ろから抱えていた。そして言うのだ。

「こんなに冷たい」
「何言ってんだよ、俺ァ普通だよへ・い・ね・つ!」
「冷たいだろうが!ほら」

あァ?と振り返れば橙次がデコをぶつけてきた。ほんとは合わせたいだけだったらしいがどう考えても頭突きだった。
かなり痛てェ。

「橙次?」
「ほらお前の体温低いじゃねえか」

そのまま橙次は俺にもたれ掛って意識を失った。

「バカ言ってんじゃねーよ、お前が熱あんだろうが…」

橙次の体は異様に熱かった。おそらく40度くらい出ているだろう。それでも暖炉の前とはいえ、この寒い建物の中ではとても心地よい暖かさだった。ソファに横になると、橙次も一緒に倒れる。冷たくて気持ちがいいのだろう、俺にくっついてくる。恥ずかしいからやめろ、と言いたいところだが流石に病人にそんなことは言えず、俺はただ橙次にされるがまま、一緒に眠るのだった。



翌日ヒロユキに雪玉を投げつけられて起きた俺が、大人げない雪合戦をしたのはまた別の話。

20120513 アニメ27話拡大妄想
藍眺くんさむいよ!ほかの服見たかったです