俺の中でやることはたった一つ。
これをやんなきゃ、に合わす顔がねえ。
守んなきゃならねえものをまた一つ手に入れて、俺は終始上機嫌だった。





獅子の鼓動




「秀吉と光秀が争って、下手すりゃ共倒れだ。そこで喜ぶのは誰か」
「家康、か」
「そうだ。そして家康は堺を遊覧中だった。それは俺が見た」

を孫市に引き合わせ、幸村と堺をぶらぶらしていたとき、家康の一行を見つけた。俺は気が付いていたが、何も告げずに様子を伺っていた。幸村は殺気を必死に抑えていた。生きる意味を失った幸村に、打倒家康の機会が巡ってきたのだ。あいつの心情を察すればわかる。俺だったら後先考えず殺ってる。まだあいつは冷静だ。

もうすぐ来るだろう。
そう思っていた矢先、幸村が京へ到着した。兼続とともに玄関へ走る。

「これは慶次殿、そして、直江兼続殿」
「何だい、兼続のことも知っているのかい。なら話は早え」
「…甲相同盟を破棄させてしまってすまなかった」
「もう終わったことはよいのです、しかしお二方、殿が」

――約束を守れそうにないと言い、羽柴軍へ従軍されました


膝から崩れ落ちたのは兼続だった。男はまた泣いていた。再会を期待した妹は、なんと後継者争いの戦いに従軍している。
感受性豊かなこの男が、泣かずにいられるわけがなかった。


「俺はを信じる。あいつは強い。そしてあいつの命は俺が預かってんだ。勝手に死なせるもんか」

なあ兼続。なあ幸村。

「家康は任せろ、と啖呵切っちまった。さあ俺たちは何をするべきか」
「それは」
「もちろん」


男三人、山崎をすり抜け向かうは家康の退路。つまりは伊賀。
明らかに伊賀衆は家康を擁護するだろう。しかしそれでもそこをつぶすことが俺たちの役目なのだ。
幸村が今までにないくらいの喜びようである。俺は豪快に笑い、ともかく二人を家に上げ、戦支度を開始した。

それがどうなろうとも、俺たちは進まなくちゃならない。

20120413 了