「…ッ!なかなかやるではないか」
「お前こそな!」

 硬い金属音が鳴り響く。
 私はこの男――石田三成と現在交戦中だ。


 信長様が模擬戦をやる、と言い出し、指名されたのが我が主の柴田勝家様と羽柴秀吉様。そしてすぐに開戦する運びとなった。我が柴田軍は勝家様を総大将に、利家と私が先鋒。対する羽柴軍は、先鋒には加藤清正、福島正則ら秀吉様子飼いの武将を送り込んできたが、早々に撃破。そこで利家は西から、私は東から進軍する。暫くは足軽兵ばかりが続き、不信に思っていたら、出くわしたのが羽柴の知能、石田三成。

「お前が石田三成だな。次峰か」
「違う、中堅だ。……何だ、もう先鋒は崩れたのか。つくづく使えない奴らだ。しかも敵が貴様のようなひ弱な女だと…?」
「女だからといって甘く見るんじゃないぞ」
「フン、先鋒は捨て駒だろう。貴様もクズだな」
「ではお前の軍の先鋒の奴らは、そのクズに倒されたことになるぞ」
「ああ、捨て駒だからな」
「(先鋒の奴ら…可哀想に) まあ、羽柴内のいざこざは知ったことじゃない。我が名は!鬼柴田が軍の魂、とくと見よ!」
「何が軍の魂だ。貴様は己の顔を見たことがあるのか?ただの猪武者どもがっ!」

 言い争いながら兵を次々に倒していく。
 コイツの攻撃はひどく厄介だ。鉄扇で攻撃してきたかと思えば、爆弾をけしかけてくる。勝利に貪欲な男だ。ねちっこい戦いが心底やりにくい。そして一々言動がうっとうしい。何だコイツ。さっきの清正殿や正則殿の方が真っ直ぐな戦いでよっぽど良かったわ。戦っていくうちにむかむかしてくる。

 気づけば周りには誰もいない。私と石田三成の一騎打ちだ。兵士の多くは逃げ帰ってしまった。先程からのしつこいくらい執拗な地雷攻撃を死に物狂いで交わしながら、私は急所を狙う。我々は大変長い間戦っていた。勿論口論しながら、である。

「何処を狙っているのだ?」

 鼻で笑いながら男は爆弾を破裂させる。カチンとくるが、それに上手く対応できない自分にも苛立つ。私は利家や勝家様とは全く違う武将に、かなりてこずっていた。

「煩い!この狐め!」

 よく分からぬ装飾を頭に掲げる男に、口だけは対抗する。私は目標をそっちに変えてやった。狐の耳を狙う。きっと大事なんだろう。そうでなければ、こんな誇り高く自信満々な男が身に着ける訳が無かろう。しかしながら両者一歩も引かぬ戦いが続く。もう日が暮れかけている。周りから戦闘の音や声がしなくなった。まさか…戦は終わったのか?

 すると勝家様と秀吉様がお見えになった。長きに渡る戦闘で疲労困憊であったが、主君の顔を見て何とか我々は身体を持ち直した。

!頑張っておるか?」
「勝家様!」
「三成も頑張っておるようじゃな」
「はッ!時間が掛かり申し訳ありませぬ」

 私と三成はきりりと互いに睨み合った。
 息を大きく切らしながら、視線で火花を散らしあう。そんな私達に向かって秀吉様がおっしゃった。

「他の奴等は皆、相討ちじゃ。お前らの戦いで勝敗が決する」

 何だと、利家め、負けおったのか!我が柴田軍では勝利以外、撤退も降伏も全て負けだ。フン、後でシバいといてやる。慶次のように水風呂に突き落とそう。そうだ、それがいい。
 戦闘中の二人は秀吉様の言葉で一層奮起した。主の顔に泥は塗れまい。まして主の目の前で、こんな奴に負けてたまるか!恐らく三成も同じことを思っているだろう。だかあまり長くはもたない。身体はとうに限界を超えていた。二人を動かしていたのは負けず嫌いの意地である。

「まぁワシの三成が負けるなど有り得んがな!残念じゃのう勝家殿〜」
「たわけがッ!わぬしの眼は何を見ておる!そこにおるのは鬼柴田の猛者、であるぞ」
「ふ〜ん、柴田殿がそこまで言うんじゃ、さぞ!お強いんでしょうなぁ」
「…家臣が雌雄を決する前に、ワシらも雌雄を決するか!秀吉!」

 たらりと冷や汗が背中に流れる。この状況、最悪の筋立てではないか……!ああ、どうしよう。勝家様がキレた…!私には到底抑えられぬし、利家はここにはおらぬし……。三成の方も、主の挑発が自軍の利にならぬことを理解して、必死に止める術を探しているようだが、何も動きはなかった。

「彼方で戦うぞ」

 かくして、主君達は山へと向かってしまった。

「そろそろ俺達も決着を着けよう」
「ああ、望むところだ」

 モタモタしている場合ではない。一刻も早く、止めなければ面倒な事になる。私は男と距離を取り、静かに見合った。

「――行くぞッ」

 ボン!
 私が意気込んだ瞬間、足元が爆発した。くそっ…!罠だったか…!この狐め小賢しい真似をしおって……!私はそのまま仰向けに倒れ込み、起き上がれなかった。ザッと音がして、男が私を見下ろしてきた。

「私の負けだ、石田三成」
「…いや、そうでもないかもしれ……」

 言い終わる前に、私の上に男が倒れ落ちてきた。私は男が頭を打たぬように動けぬ身体を動かして、必死に抱き留めた。此奴は敵だ。助ける義理などないというのに。

「…大丈夫か」
「お前に心配される義理はない」
「社交辞令だ」
「フンッ」

 つくづく素直じゃない男だ。

「おい、降りろ。その妙な装飾が顔に刺さる」
「嫌だと言ったら?」
「首を締める力くらいは残っておるぞ?」

 私の上に陣取っていた男は、横へと落ちた。もう動けないのであろう。お互い、自分の主の前では必死に気丈を取り繕っていたのだ。息も絶え絶えに、ちらりと男を見遣った。

「…何だ、柴田の娘」
「別に何も無いが」
「なら見るな。お前に見られると何か減る気がする」
「(勝手な言い分だな…) 見せたくなければ私の目を塞げばいい」
「…全く、口の減らん女だ」

 お前もな、と返そうと思ったが、もう疲れて面倒になった。私はゆっくりと眼を瞑る。火照った身体に、風が心地良かった。すると身体が一瞬にして重くなる。何事かと思い目をばちりと開くと、一寸先には石田三成の顔があった…

「な、何をす……!」

 唇が重なる。それもどこか心地良い、と思った自分に驚いた。

「…何をするのだ」
「近くで見るとお前も中々可愛く見えたのでな」
「口だけは達者だな」
「…口だけでない事、今此処で証明して見せよう」

 そうして、三成は私にもう一度口付ける。さっきのよりも、もっと深く。息が上がっているのにそんなことをされて、私は抵抗する事が全く叶わなかった。

(このままでは、食われてしまうっ…!)

 神様仏様勝家様、私をお助け下さい…
 三成に唇を奪われながら必死に願えば、それらは私を見捨てなかった。

「――っ! 帰るぞッ!」
「三成ももうええ。俺らも帰ろうや…?!」

 主たち二人はその光景に目を疑った。あの三成が女を襲っている…!

「す、すまんな、三成。邪魔して」
、明日には帰ってくるのだぞ」

 お二人は私を置いてさっさと去ってしまった。何故だ、何故なんだ。毘沙門天様の名を先に言わなかったからか?!

「…諦めろ、


意地っ張りの攻防