目覚めると、私は布団に寝かされていた。
 昨晩は遅くまで左近様の話し相手をしていたから、いつしか眠ってしまったらしい。申し訳なく思いながらゆっくりと起き上がると、やけに神妙な面持ちの三成様がすぐ傍に座っていらっしゃった。

「…起きたのか」
「え、あ、はい。すみません、長い間寝てしまって」
「構わん。兎に角、身支度を整えろ。昼餉には間に合う」

 そう言うと、三成様は部屋を後にした。
 私は昼近くまで眠っていたのかと、頭の上がらぬ思いをしながら、大急ぎで仕度をする。焦り慌てて襖を開ければ、眩い光が差していて、一瞬視界を失った。
 眼が慣れる頃、目の前には三成様が待っていらっしゃった。殿はこっちだ、と小さな声で私を促す。大坂城ということもあり、私が造りを知らないから案内する為に待っていてくださったようだ。
 広く長い廊下を歩いていると、三成様は唐突に話し出された。

「ところで、昨晩はどうだったのだ?」
「どう、と言われましても…私はただ左近様のお相手をしていただけで…」
「ほら、左近の相手をしていたのだろう?」

 ニヤリと笑う殿。この顔は“してやった”と思ったときの表情だ。悪巧みをする三成様は、一際楽しそうである。

「殿…何か勘違いされていませんか? 私は左近様の話相手をしていただけで、それ以外は何もありませんよ?」
「なんだ。そうなのか。左近がお前と同じ布団で寝ただの言っていたのだが」

 そこで三成様は一旦話をやめ、また策士の本性を出して笑う。おおおお同じ布団?!と焦る私を見て、殿は楽しそうに扇を振った。二つ角を曲がると、暫し黙っていた三成様が再び口を開く。

「では今度は俺の話を聞いてもらうとするか。――お前が佐和山を出てから、どれだけ左近が荒れたか…」

 殿は盛大にため息をついて、私を見る。少々睨まれている気がするのは気のせいなのか。…否。

「佐和山を出て少しはただ大人しかっただけなのだがな、一日、また一日と過ぎれば日に日にお前の楽器を見ては嘆き、食事もろくに食わん。毘沙門天くらいしか信じていそうに無い左近が突然何かにつけては神や仏に祈る毎日。見ていて気持ちが悪い」

 全て私のせいだと言わんばかりに、三成様は饒舌にまくし立てる。まだあるぞ、と殿は私にひとしきり日頃の鬱積を吐き出した。ちなみにここはまだ廊下なのであるが。

「…はぁ。まぁ今日はこのくらいしておいてやる」
「有り難きことにございます…」

 幸村様のところに私を使いに出したのは何処の主ですか!と言いたいのを堪え、私もため息を小さく吐くのだった。広い大坂城の中、漸く着いた宴会場。私達が到着した頃には、もう皆様が御そろいであった。

「…まあ兎に角、お前が無事で何よりだ」

 優しい言葉を殿がくれたと思ったら、今度は鉄扇で頭を小突かれた。この鉄扇は、三成様が戦場でも使う武器である。痛くないはずが無い。何せ材料は鉄だ。それでも私は、主君に思われていることを感じられて幸せだ。

20081206 左近にも殿にも思われているヒロイン。