町は数日前と打って変わって、怪しい雰囲気に包まれていた。殺気に包まれている。一度戻って橙次を連れて来ようかと考えたが、私の足に小さな子供がしがみ付いた。町は戦闘状態だ。私はそのガキから家の場所を聞いて、連れて行ったが、丁重に仕組まれた罠だった。

「ご苦労なことだ」

背後から感じた殺気に身をよじると、左足を負傷した。拳銃で撃たれた私はその場に崩れ落ちる。ガキはすぐさま走り、建物の中へ逃げ込んだ。なんだよこれ、笑えねえよ。だけど私もこう見えて元軍人のプライドがある。周りを男たちに取り囲まれた時を見計らい、腰巻に隠してあった唐辛子の粉末を投げつける。

「そいつをーォ離せーっ!」

空から弾丸のように降ってきたのは藍眺だった。周りの男を数人殴り、人の壁が崩れた瞬間私を掴みあげ、藍眺は空へ舞った。

「てめえ何してんだよ、こんなところで」
「帰りが遅いから、心配したんだうわあああ」

藍眺はすさまじい脚力で跳ね上がり、私は驚いて叫んでいた。

「落ちねえようにしっかり捕まってろ、バカ」
「捕まってるうおおおおお」

何故か姫抱きされていて、私は藍眺の首にしがみついた。男は跳ね上がり、7,8階はあろうかという建物の屋上に私を降ろした。人生初体験の空の旅で、私の寿命は5年は縮んだと思う。

「げ、お前足怪我してんじゃねえか」

大丈夫だ、と言ったが、藍眺は聞かず、自分のシャツを脱いで破り、私の足の止血をした。そして飛び立つ。

「後でぜってえ迎えにくるから、じっとしてろよ!」

藍眺はこの高さから飛び降りた。忍空組隊長クラスというのは本当らしい。しかしこの場所がどういうところなのかは知らずに私を置いて行ったようだ。なぜならここは、奴らのアジトらしい。屋上にわらわらと湧いてくる敵。ざっと30人はいるだろう。手負いであり、武器も特に持っていない私に勝ち目はなかった。

「万策尽きたか…」

私のつぶやきは風に消される。負傷した左足を庇いながら立ち上がる。敵がにやりと笑って私に近づいてきた。

「アンタ、あの男の何なんだ?」
「さあ、なんだと思う?」
「俺たちにとっちゃ、アンタが誰でも構わんのだよ、死んでくれ」

にやけ面が拳銃を私に向ける。距離10メートル弱。撃ってからじゃ避けられない。その時、地響きが聞こえる。腹の音でも、飛行機が墜落する音でもない。それは、ビルが倒れる音。このビルが、けたたましい音を立てて崩れ始めた。にやけ面は私に向かって発砲したが、バランスを崩したせいで、それは私の腹部をかすっただけだった。
このままだと生き埋めになるなあ、と痛さで麻痺する考えの中、私は落下していく。

「バカ橙次!まで埋める気か!」
「うるせえな、おめーが早く助けろバカ藍眺!」

下のほうから藍眺と橙次の会話が聞こえ、目をやると藍眺がものすごいスピードで跳んできていた。うわあああという驚きの叫び声を発する私を、また横抱きで捕まえ、瓦礫の間を飛び回って地上へ降りた。

「もう大丈夫だ、おい、、」
? あー、気失ってる。出血量がやべえかもしれねえ」
「急いで病院に連れてくぞ!」

私は出血多量で意識を失った。





そして意識を取り戻したとき、ベットに寝かされていた私のそばにいたのはヒロユキだった。おはよう、ヒロユキ、と言うと、ペンギンは大声を上げて外へ出て行った。入れ替わりに里穂子が駆けつけて、そして藍眺が駆けつけ、男は里穂子を突き飛ばして私の枕元に来た。

「おい、おい、大丈夫か、」
「大丈夫、だよ」

大丈夫と言いながら顔を顰めてしまった。腹部と足がまだ痛い。そんな私を見て、察したのだろう、藍眺はひどく切ない顔をしてこちらを向いてくる。藍眺のせいじゃないと言いたかったが、それは叶わなかった。藍眺があの日のように私のベッドに潜り込んで、体をぴったりと寄せてきたのだ。背にいるので顔は見えないが、腹には優しく手が回っている。里穂子が叫んでいるが、橙次が気が付いて引っ張り出していた。
いわゆる二人っきりという奴である。

「すまねえ」
「謝らないでいい、戦闘に巻き込まれたのは私のせいだ」
「それだけじゃねえ、俺はお前にいっぱい謝らなきゃなんねえ」

どういうことだ、と尋ねれば、ため息を少し漏らして、こういうのだ。

「俺、里穂子と橙次に言われるまで、お前が女だと気が付かなかった」

その言葉に私は笑う。もっと笑いたいが、腹がほんとに痛くて笑えず、くつくつというだけだった。

「な、何で笑うんだよ、お前」
「それで?私が女で、どう思ったの?」

藍眺は語る。本当は女嫌いで、触られるのも触るのも、話すのも嫌いらしい。でも私は男だと思っていたし、それに一緒にいてとても居心地がよく、何となく俺が守らないといけねえって思ってたと、言った。

「俺は、お前がすき、みたい、だ」

そう言うと、藍眺は私をきつく抱きしめる。痛さから少し喘ぐと、気が付いてすまねえと謝った。

は、俺のこと、その、どう思ってる」

しおらしく言うこの男が不釣り合いで、ふっと笑うと、藍眺はいつものように眉間に皺を寄せる。

「な、また俺のことバカにして…」
「すきだよ」
「…だったら、俺の名前、呼んでくれよ」

そういえば一度も名前を声に出したことがなかった。私はどきどきして、男のほうを振り返り言う。

「すきだよ、藍眺、」
「やっと俺の名前、呼んでくれたな」
「ちょ、あ、痛っ」

力任せに抱きしめてくる藍眺。そして開く扉。騒ぐ橙次と里穂子。橙次が聞いた、藍眺とうまくやってるのかという質問は、女嫌いの藍眺がどうして私と暮らしているのか疑問だったからだ。男と思っていただなんて、信じられるか?と橙次は後から教えてくれた。


「てめーら、そこで何してやがる!」
「藍眺さん、私のことなんてどうでもいいのね、里穂子泣いちゃう!」
「うるせえブス」
「藍眺、痛い、離して…」
「ああすまん


これは藍眺と私の、出会いの物語だ。










会いに行きたい、


に生きたい











20120430 藍眺3部作 タイトル 1204さま
突然の忍空ダダハマりにつき、はつゆめ。勢いだけで書いたので、修正するかも、そして続くかも