大学の講義は3時くらいに終わる。1日の残りはバイト。
今日のバイト帰り、いつものように駅まで歩いていると、目の前にどっかで見たことのある顔が。
…もしかして。


「…あれ?匪口?」
「あ!…!」


久々に会った元クラスメイトは、すこし大人びた顔をしていた。


道端で友人に会う、なんてことは意外に少ない。学生ならともかく。
私のバイト先と、匪口の働いている都庁は実はすこししか離れていなかった。(今まで興味をもっていなかったから知らなかったんだけど)
お互い夕食がまだだったので、すぐ近くのファミレスに入る。

注文が面倒だったので、匪口が頼んだやつに「私もそれで」と付け足しておく。
颯爽とウェイターのコが帰ったあと、待っている間2人でだらだら喋った。


「いやーまさか匪口が刑事だとはね…」
「何だよその『意外』って言い方は」
「意外だもん。仕方ない」

刑事とは正反対の人だと思ってたよ、というと、当たり!と匪口は笑うのだ。刑事は犯罪者と紙一重だ、って。
ちょうどその時、私達の注文した料理がテーブルに届く。
鉄板ははじゅうじゅうと熱さを物語る音を出していた。匪口にステーキか。ちょっとまた意外だな。
いただだきまーすと元気に肉に食らいつく匪口が今度は私に質問してくる。


「お前は今になにしてんの」
「大学生」
「何学部?あ、ちょっと待て、俺が当ててやる…経済か?」
「正解だけど、よく分かったね」
「こんな時間までバイトだろ?一番遊んでるだろう学部を選んだまで」
「おーなかなか当たってるよ。そ、だから世の中の経済が分かるバイト先はすぐ近くの大型家電量販店」
「マジ?!じゃあさ、今度パソコン買いに行くから値引きしてよ」
「んー、しょうがないなー」
「さすが!イイ人!神!」


そんなお前に俺のつけ合わせやるよ!と匪口はハンバーグステーキの皿の上に乗っていた、カラフルな野菜やらポテトやらを私のに乗せてくる。
…嫌いなのか?
ま、いっか。匪口が笑ってんの、珍しいしさ。


「なににやけてんの」
「あ、うん、別に」
「嘘付け。そんなに俺が笑ってる顔が珍しいか?」
「ばれてたか。…いやさー、昔より全然良くなったよ、匪口」
「お前も昔よりマシになったよな」
「匪口クンオ世辞モウマクナッタネ」
「お世辞じゃねーよ。マジ。」

初め誰か見分けつかなかったもん。そう言われて、すこし舞い上がったじゃないか。もちろん営業スマイルでごまかしたけど、ばれてるかも。



「じゃ、俺、金払うから」


そんなの悪い、と言っても「貧乏学生に払わせるわけにはいかねー」とか言っちゃって。
何を紳士ぶってるんだか、と言いたいけど…事実なので言い返せない。なんか悔しい。





店を出てからの帰り道も結局ほとんど一緒で、駅まで歩いてても、電車の中でも、ずっと話題は尽きなかった。くだらない話をいっぱいした。
ラッシュを過ぎた車内、一際若い私たち。周りからどんな風に思われてるんだろう。やっぱりカップルと思われているんだろうか、なんて考えたら恥ずかしくなってきた。


「あ、やべ、降りっぞ」
あやうく乗り過ごしそうだった。危ない。





最寄り駅からの帰り道はひどく暗くて、本当は怖い。いつもは陽の出ているうちに帰るから、こんなに暗いのは初めてだ。
電灯は半分切れ掛かったものばっかり。こういうのに何故政府はお金を掛けないんだ、とどうでも言いことを考えて、ごまかそうとしてみる。
やっぱりそれでも怖いのはなくならないけど、横に匪口がいるから、まだ大丈夫。

ー?お前平気か?震えてるけど」
「……え?」


恐怖と戦ってると、私の右手に匪口の左手が絡んだ。



少し見上げれば、
「強がってんじゃねーぞ、バーカ」


それが匪口のやさしさで。それが本当に嬉しかった。





その後も怖がらせないように、としてくれてるのか、私たちはずっと話していた。


「それでさー、突然言うのもなんだけど」
「うん、何?」
「俺のこと好きなんだよね」
「うん……え?!」

その言葉の意味を知ったとき、匪口は私を抱きしめていた。
ちょ、ここ公道なんだけど!



「匪口…本気?」
「もう何年も片思いしてたん人が、急に声掛けてきて、止められなくなった」
「…あのね、わたし」
「いーよ、別に。誰か付き合ってる人とかいるんだろ。それに」
「ちょっと話聞いて」
「俺はに言えただけでいいよ」
「聞いてってば!」



私はとたんに恥ずかしくなって匪口に抱きついた。




「私だって、何年も匪口のこと想ってたんだから!」





それを言い終わったときには、私の唇は匪口に奪われていた。

(匪口のヤツ、まんまと笛吹の策に嵌ったな)

20080705 経済学部の方ごめんなさい