忘れたよ、アイツのことなんか。


そう答える俺の声は、明らかに震えていた。ほんの少し、笹塚さんが笑うのが見て取れる。…くそ、むしゃくしゃする。大体何だっていうんだ。昼休みに俺を呼び出して一言、「ちゃんとはよくやってるのか?」だなんて。知らない。なんて知らない。アイツは俺の前から消えたんだ。消えた理由?俺が知りたいよ。電話にも出ない。メールも返事がない。だから家に行きたいけどあまりにも忙し過ぎてそれは今だ実行ならず。あー考えただけでイライラする。俺は「お昼は笹塚さんの奢りで!」と宣言して、食堂を後にする。


一体は何をしてるんだろう。ここのところ、仕事で缶詰だから全然会ってない。本当は会いたくて会いたくてたまらないんだけど。でもきっと俺は捨てられたんだよな、この状況からすると。これ以上考えたくない。そう思って現実逃避に俺は仕事に打ち込んだ。


最近の仕事は結構ややこしいものばかりで、捜査もだけど報告書も半端ない量。普段の俺ならなかなか手をつけないだろうけど、今の俺には余計な私情を忘れられる絶好の機会。異常な集中力で出来た資料を笛吹さんのところへ持っていった。

「笛吹さん、出来たよ、コレ」
「匪口?!もう出来たのか?」
「まぁね。こっちのディスクにもデータがあるから見ておいてよ」
「…あぁ。分かった。それから匪口、明日は休みで構わない」
「いいよ、出勤するよ。まだ仕事あるし」
「構わんと言っているのだ。ではな」


絶対なんか企んでるよな、あの顔。廊下に出ていった笛吹さんが珍しくニコニコしながら(いやニヤニヤしながら)電話してる。そんなに仕事が早く上がって嬉し いのかよ。はぁー、俺はため息しか出ないってのに。明日出勤するかどうかは別にして、取りあえず今日はもう帰ろう。捜査一課から情報犯罪課に戻ってくると、笹塚さんが待っていた。


「笹塚さん、何か用?」
「俺じゃなくて、別の人が、な」


ほら、入っておいで。そう笹塚さんが呼ぶと、が入ってきた。何で?状況がサッパリ分からない。頭が混乱してる。そんな俺へのの第一声は「ごめん」だった。


「……え?」
「ゆ、結也に会わないようにしてくれ、って笛吹さんと笹塚さんに頼まれて…」
「…どーゆーことなの?」
「あぁ、それは俺が説明しよう」


結局は、こうでもしないと俺が報告書を書かないと思ったらしい。やる気を出すか、出さないかは博打だったみたいだけど。に捨てられた訳じゃないと分かった途端、俺はに抱き付いた。ごめんね、と言いながら抱き締め返してくれる。やっぱり俺、コイツがいないと生きていけないわ。


「ほら匪口、笛吹から一日休みもらったんだろ?早く帰ってやれ」
「え、ちょっと待って。それほんとなの結也」
「マジ。暫く会ってなかった充電だよ。さ、早く帰ろう

(匪口のヤツ、まんまと笛吹の策に嵌ったな)

20080518 初匪口くん。長い間考えていた話とは違う、1時間で書いた突発夢。