扉を開ける音がした。からんからん、カウベルが鳴る。
誰だろう。そう思って目を開ければ馴染みのお客さんだった。
「…ああ、鬼鮫さん」
「おや、起こしてしまいましたか。すみません」
「いや、いいんだ」
「それにしても…こんなところで眠らないでくださいよ」
「…ああ、ごめんなさい」
「風邪でも引いたらどうするんですか」
「ん。」
眠くて身体が言うことを聞かない。
「そこに、残りものだけど、ごはんは…あるから」
「いえいえ、いいんですよ」
「んー…でも」
「いいから、おやすみなさい」
「ごめ…」
私はごとりと音を立てた。頭をシンクにぶつけたのだ。ここはキッチンで、料理用のいすに座りながら私は寝ていた。
痛さより眠さが勝った。
鬼鮫さんが来ているというのに。何も出せずに申し訳なかった。
彼はやさしい。だからいつも鬼鮫さんには甘えてしまう。
ひんやりとした感覚が気持ちいい。
私は少し熱でもあるのかもしれない。うっすら目を開けると鬼鮫さんがいた。
彼は私のおでこに手を当てながら微笑んだ。その冷たい手が気持ちよくて、また私は目を瞑る。
「起きましたか、もう熱は…」
うっすら聞こえているが、また意識を失った。
鬼鮫さんの肌は気持ちがいい。素肌がふれあっている。くっつくと心臓の音が聞こえた。
…ハッ
「今度こそ気がつきましたか?さん」
「え、あああの今一体私は何をッ」
「すみません、あなたがあのままシンクに頭を突っ込んで寝ているのを見過ごせなかったので、勝手に奥へ運ばせて頂きました」
それで熱があったようだから心配して傍についていたら、私が鬼鮫さんにくっついていたらしい。
ひええええ恥ずかしい!
ごろんと鬼鮫さんに背を向ける。
ああ、私は何故そんなことを…恥ずかしすぎてなんも出来ません。
羞恥に悶えていたら、鬼鮫さんが悲しそうな声を発した。
「やはり私がいけませんでしたね。勝手に傍に居てすみません。今日は帰りますから」
「や、待って」
「いえ、いいんです。またご飯を食べに来ますから」
鬼鮫さんの方を向いて、その手を思いっきり引っ張った。
予想外の反応に、鬼鮫さんは私に倒れこむ。けれど片手は私を踏まぬようについていた。
「さん?」
「や、あの、私、その」
「無理はしないでください、それともお医者を呼びましょうか?」
「だ、大丈夫、だから、えと」
ま、まだ帰らないでください
真っ赤な顔でそう言えば、鬼鮫さんはやさしく笑って、仕方ないですね、と言った。
「まだ熱があるようですね」
ひんやりとした手が私の頬を捕まえた。
そっと腰に回される手。ひんやりとした身体。その感覚にどきどきして蒸発しそうだ。
「…こんなことでそう真っ赤になっていてはこれからもちませんよ?」
すこし悪意のこもった言葉が耳元に振ってきた。
透明なジャンキー
20090117 鬼鮫さんが突然来ました。別にそんなファンじゃなかったんですけど…何故だ…好きだ…!