友人と別れ、わたしはひとり、駅のプラットホームで電車を待っている。まだ陽は出ている時間帯なのに、空はひどく暗かった。しずかに冷たい空気が伝わってくる。風がすこし吹いたと思えば、それは森と雨のにおいがした。
 薄暗い空は瞬く間に厚い雲に覆われ、大粒の雨が降ってくる。 狭いホームのなかで水滴を避けるのは難しい。まん中に立っていても、飛沫を感じる。足元からは、熱気がむうと現れた。

 わたしは誰もいない線路の先を見つめながら、どこかに洋平の面影を探していた。あの日、いつまでも手を振り続けてくれたその姿をこの場に思い返して、ふいに泣きそうになる。 駅前の濡れた放置バイクに、昔のわたしたちを重ねた。幸せだった、あの日々を、いっぱい思い出す。
 振り返らないと決めたのに、何故今更思い出すのか分からないけれど、それでもわたしは洋平のことがまだ好きなのだと自覚した。 この雨とともに流れていってしまえばいいのに。 ここに来たのはわたしの選択だったはずなのに、どうしてだろう、今は誰かのせいにしたい。押しつけてしましたい。

 思い出せば後悔ばかりだ。
 どうしてわたしは洋平の手を離してしまったのだろう。
 どうして指環を返してしまったのだろう。

 大好きだったのに。いや、大好きだったからこそ、わたしにはもったいないと思ったのだ。

 わたしはついに泣き出してしまった。
 自分が悪いのに、人のせいにしたいなんて、思うことはいけないのは分かってる。でも涙が出てくるのだ。 そうしているうちに、雨はどんどんひどくなってくる。屋根の意味がないくらいだ。わたしは全身ずぶ濡れになった。
 それでいい。
 風邪でも引いて、そして忘れよう。
 夢であったと、そう、とっても幸せな、夢で、あったと、思えばいいのだ。

 ただ一言、洋平に、ごめんなさいと言いたい。
 あなたを傷つけたくなかった。だけど、傷つけてしまって、ごめんなさい。

 愛してる、はもう言える立場じゃないから、言わないけど、ね?

 依然激しく叩きつける雨に、ぶるりと身体が震える。
 街にすこしずつ灯りがともり出した。
 きっともうすぐ電車は来るだろう。

 苦手な雷も、必死にこらえた。
 頼るひとは、もうわたしの傍にはいないのだから。

 降りやまない夕立の中、私はただ一人電車を待ち続ける。

20090616 突発的悲恋が書きたい病にて