「花道…わたし、花道のことがキライになったの。さよなら」

 呆然とする花道を置いて、私はその場から走り去った。とっても卑怯な手段だと自分でも思った。だけど、私にはこんな陳腐な方法しか思いつかなかったの。花道がバスケを頑張ってるの、知ってるから、私よりも、バスケに集中してほしいから。
 私は世界で一番大切なあなたに、一番言ってはいけない言葉を投げつけた。






 学校の中に、逃げる場所なんてなくて、私は校舎のはずれにある選択教室に入った。ここがいつも鍵が開いていることは知ってたから。何度も何度も、「あれでよかったんだ」って思い込もうとするのだけど、心のどこかが大きく反抗する。だめ、だめなんだって。このまま花道の傍にいたら、私はただのお荷物なの。自分で言う、って決めたんじゃない。誰も居ない教室で私はひとり、涙を流し続ける。誰かに見つけられたい気持ちと、誰にも見つかりたくない思いが交錯する。花道、ごめんね。あの言葉、嘘なんだよ。キライになった・なんてそんなことあるわけないじゃない。そんなことを言われた花道は、今どうしてるんだろう?

――あぁ、また花道のこと考えてる、私。なんて女々しいの。

 自嘲しても、涙しか出てこない。ハンカチなんて、もう意味成さない。これは何の涙なんだろう・・・分からないけど、眼からはたくさんのそれが溢れてくるのだ。きっと泣きたいのは花道の方だろう。私は自分が招いた現実なのに、夢であればいいと思ってる。花道が、「っ!」・・・そう引き止めてくれたら嬉しいな、だなんて、都合が良すぎるはなし。

!バカ!」

 その愛しい人の声が、後ろから聞こえた気がして振り返ったならば、それは夢ではなく本物の花道で。その証拠にほら、私の身体に巻きつく、がっしりとした花道の腕。感じる体温、跳ね上がるのは私の鼓動。

・・・さっきの言葉、うそだろ」
「ッ違う!わたしは本当に」
「嘘だ」

 そう断言して目を見つめられれば、私には何も出来ない。その瞳に嘘をつくのはとっても心が痛い。でもね、花道、私はあなたが好きで、好きで、世界で一番大好きだから、あなたの足枷にはなりたくないの。だから心を鬼にしなきゃならないいんだ。

「ね、花道、私は」
「もう何も言うな」

 そして花道はとっても優しいキスを私にくれるのだ。やめて、やめてよ。そんなことされちゃったら、ますます私はあなたから離れられなくなる。“好き”が強くなる。もう十分大好きなのに、私にはどうしたらいいか分からない。その結論がさっきの言葉なのに。花道は私の肩を掴んで、眼を見据えた。

「もう二度と!・・・もう二度と、を不安にさせねぇから。絶対させねぇから。もっとバスケ上手くなって、流川のヤローも余裕で見下してやるから。だから俺のその姿を、俺のそばで、見てては・・・くれませんか」

 ああもう、私はなんて幸せなんだろう、って思った。
 こんなにも愛してくれてるなんて。そして私は花道になんてことを言ってしまったのだろう、って。そう思うとまたぼろぼろと涙が出てきてしまう。花道は「ふぬ?!何故泣く?!」と慌てふためいている。ごめんね花道、あなたを困らせるつもりは全然ないのに、結果的にあなたを困らせてばかりだね。でもこの涙は、きっとさっきのとは違うんだよ。

「花道」
「お、お? な、なんだ?」
「私があなたのそばに居ても構いませんか?」

 その言葉にもちろんだ、という台詞を込めて、花道はわたしにとびっきり優しいキスをくれるのだった。

20080717 花道が好きです。彼は相当優しいひとだと思います。