友達はいっつも恋の話ばっかりする。それがイヤだった。自分が彼氏いないからってわたしに期待しないでくれる?いちいち男友達の話をするのが一向に気が進まず、だからわたしは余計に女の子が嫌いになっていく。
「…だからって俺のところに来るなよ」
「うるさい。あんたくらいしかそんな話聞いてくれないんだもん」
ずーずーっとカルピスをすする。夏はやっぱりカルピスだ。本当は麦茶の方がすきだけど。愚痴るわたしを見て、洋平はすっかりゴキゲンナナメになっている。そんなん知らん。ファミレスでこの男に話を聞いてもらうのが、この夏のわたしの習慣になりつつあった。
「まあ俺は別にいくらでも話は聞いてやるけどよ、そろそろお前も彼氏作ったらどうだ?」
「よ、洋平までそんなこと言うの!? もういい、もういいよ…」
まさかの展開。よき相談相手と思っていたひとからこんな話をされるとは。わたしももう終わりだなぁ。もう二次元しかないわ。ムカついたのでカルピス味の氷をがりがり食べてやった。洋平はこういうことを「はしたない」と言って怒るのだ。
しかしながら洋平は、より深刻そうな顔をしてこっちを向いてタバコを吸っている。ポールモールの緑のやつ。お互い黙ったまま、わたしは氷を噛み砕き、洋平はタバコをくゆらせた。
「…いい加減、素直になれよ」
「誰にモノ言ってんの」
「。」
だから洋平は嫌いなんだ。女の子より鋭いから。でも洋平しかこんな話聞いてくれない。イヤだと言ったら、俺もお前のそんな話は聞き飽きたと言われた。聞き飽きたってなんだよ。ひどいなあ。
カルピス飲んだし、氷も全部食べたし、伝票持って席を立った。何となくニヤリとされたのは、気のせいだ。
会計を済ませて、外へ出る。陽炎のようなものが見える。いつから日本はアスファルトを採用したんだろう。確かに砂埃よりはマシかもしれないけど、暑い。
「ー」
店内に戻りたい。でも今会計を済ませてしまった。
ああ、どうしよう、心の葛藤をしていればもう声の主はわたしに近づいていた。
分かってる、イヤじゃない。むしろ、
それは孤独を埋めていくから
これでいいの。
花道は、何も知らなくていい。今のままで、十分、幸せだから。
「…どうせそんなこと思ってんだろ」
「分かってるならそっとしといて」
「板ばさみの俺の気持ちになってみろ。ほんとにお前らはバカだな」
後から店を出てきた洋平が、わたしの頭をぐしゃっとする。これはこの男の癖なのだが。
「なぬ! ようへー! になにしてる?!」
花道はバカだからその辺をわかっていなかったりする。どたどたと走ってきて、そうして洋平からわたしを奪い取り、腕の中に収める。晴子さんにはそんなこと出来ないくせに、わたしにはそんなことする。
ねえ、勘違いでいいから、このまま居させてほしい。それはわたしのわがままなんだろうか。洋平と言い争う花道の腕の中で、わたしはふっと目を瞑った。
20110708 焼き直しで収録