「………うっせぇ、」

 同感だ、と思った。
 外ではしゃぎ遊んでる子どもの声は、なんてうるさいのだろう。声変わりしてないってのもあるだろうけど、それはひどく耳障りで、私たちをイライラさせる。

 休日の昼下がり。私は鉄男の部屋でのんびり過ごしていた。お互いが休みというのは久々で、鉄男は何処かへ行くか?と提案してくれたのだけど、鉄男に少し疲れが見えたから、ゆっくりすることにした。そしたらどうだ。近所のちびっこが集まってきて、すぐ近くで遊んでるらしい。

「…くっそ、あーうっせぇ」

 あまりにもうるさいから、鉄男はベッドに横たわってしまった。私もそれに続いて横になる。

「お前はガキは好きか?」
「そう見える?」
「全然」
「ご名答」

 そう答えて、私たちは笑った。
 私と鉄男は結局似た者同士。例えば、どこか大人びてるとか、バイクがないと生きれないとか、実は勉強が出来たとか、こんな風に子どもが嫌いだとか。他にもコンソメスープが好きだとか、靴は必ず右から履くとか、そんな些細なことも似ていて面白い。

 鉄男は両手で私の耳を塞ぐ。私も鉄男に同じことをしてみた。筋肉が収縮するゴゴゴ、という音がする。だけどあの甲高いちびっこの声は聞こえてしまった。はぁ、と落胆の声を鉄男が漏らす。そして私の耳から手を離した。私も同じように手を離す。結局ベッドで二人、ごろんとなって、鉄男は「…うるさいガキ」と呟いた。

「鉄男は子どもは嫌い?」
「好きそうに見えるか?」
「意外にも、ってことは」
「絶対ない」

 とにかくうっとうしい、それに小賢しいだのなんだの、鉄男は子どもに対する愚痴を言い出した。鉄男が子どもについて、例え愚痴としても、こんなにも喋ることにびっくりした。

「―また叫んでやがる。何がそんな叫ぶようなことなんだよ、ってオイ、聞いてんのか?」
「え? あ、ああ聞いてる」

 私はふと思ったことを鉄男に聞いてみた。

「ね、鉄男、もし自分の子どもが生まれたらその子も嫌い?」
「………多分、それはねぇだろ」

 鉄男との間にもし子どもが生まれたら、どんな生活なんだろう。そんな幸せな妄想をしていたら、私はどうもニヤニヤしていたらしく、鉄男に頭を小突かれた。

「何がおかしい?」
「きっと鉄男はいいパパになるだろうな、って思って」

 そう正直に答えると、鉄男は優しく笑って、私の髪をそっと梳く。

「お前もいいママになるだろうよ」

 そうしてまた私たちは笑った。いつかそんな日が来るかもしれないけど、今の私たちには到底想像がつかない。だけどその未来はとても幸せだってことは何故だか分かってた。

「けど、なかなか実現しねぇだろうけどな」

 なんで? と聞き返せば、鉄男は私にそっと口付けて言うのだ。

「まだしばらく、お前にはガキじゃなくて、俺の相手をしてもらわなきゃいけねぇからな」

 その言葉に、赤面したのは言うまでもない。鉄男はまだ外で騒ぐちびっこに、悪態をついていたけど。

20081101