先にスポーツショップに寄って、昨日の靴下と同じサイズを探すと、30センチ近くもあった。巨人だ。わたしのサイズは22.5センチしかないのに。そりゃ大きいわ。靴下を3足買って、山吹を目指す。
「おねーさん? 山吹に何か用? なければ俺が用があるんだけど」
校門に立つ青年は、髪を綺麗なオレンジ色に染めている。制服の彼は、わたしに軽く声をかけてきた。
「あーええっと。テニス部の人を捜していて」
「マジ?俺かな?」
「ごめん、君じゃないんだけど」
「ざーんねん。で、誰?俺テニス部だから」
このチャラ男くんはなんとテニス部らしい。これはツイてる。わたしは彼の特徴を話した。銀髪を逆立てた、背の高い男だと。
「珍しいお客様だね。今日来てるよ。こっち」
どうやら今日もちゃんと部活に出ているらしい。昨日は帰るのが遅かったのになとわたしはぼんやり思う。オレンジ頭くんに続いて校内に入ると、昨晩の彼は試合中の様子だった。
「亜久津と知り合いなの?」
オレンジくんは聞く。そして銀髪くんは亜久津というらしいことを知った。知り合いというか、世話になったと言えば、彼はますます怪訝な顔をした。ファンの女の子達が待っているところで一緒に部活を眺めていると、試合が終わった亜久津くんがゆっくりこちらに歩いてきた。わたしに気が付いたらしい。
「…なんだ」
「昨日はどーも。これ渡しに来たの」
さっき買った靴下を彼に突き出すと、いらねェって言っただろ、と悪態をついた。まあまあ消耗品だし使ってよ、とわたしはそれを押し付けてさっさとその場を後にする。帰りにオレンジ頭くんが手を振ってくれたので、軽く手を振りかえしておいた。校門でなんとなく後ろを振り返ると、亜久津くんが走ってくる。まあいいかと思ってわたしはそのまま学校から出た。
「何無視してんだ」
「い、った、」
頭にチョップを食らわされた。走って来た加速度もあり、身長もあり、手も大きいんだからほんと痛いよ!なんだよ!
「もう終わるから待ってろ」
「え、何で」
「いいから俺を待ってろ」
いいな、と念を押され、まあ休みで何も予定はないからいいかと思って、そこで待ってると公園を指差した。さすがに校内には居づらい。亜久津くんはそれに納得したらしく、もう一度待ってろと言って、走ってコートへと戻って行った。
このまま帰るとなんだかコワイので、その公園のブランコに乗ってゆらゆら待っていると、突然揺れが止まる。ぬわあと驚きの声を上げると、後ろに亜久津くんが立っていた。部活が終わったらしく、昨日の白ランになっていた。
「帰んぞ」
「え、うん?」
「お前普通にしてても何か危なっかしいんだよ」
「はあ?そんなことないし」
「いつも金曜に俺が電車で横に座ってんの気づいてないだろ」
いつも?昨日だけじゃなくて?そう尋ねれば彼はそうだよ、とため息をついて言った。電車に乗っている時間は長くて大体寝ているから、正直知らない。
「無防備に寝やがって」
「寝てるから無防備なんじゃない」
「もうちょっと緊張して寝ろ」
わたしの降りる駅を知っている彼は、昨日のようにゆっくりと歩きながら、一言言うたびにわたしにチョップを食らわせる。こんな風に彼と道を歩くなんで思っていなかったから、段々面白くなってきて、わたしは自然と笑顔になった。彼はやさしい。何となくその気持ちに気がついたけれど、それは彼から伝えてもらうまで、わたしは待っていようと思う。