すきなのは分かっていて、それでそっからどうしたらいいのかっていうのが分からない。付き合うってことが、今以上にしあわせなのか分からないし、第一付き合うっていうのは、相手との利害関係が一致しないと無理なことだと思う。

 移動教室、休み時間、放課後。
 毎日その姿を見ることはないけれど、見れたらラッキーって思うし、その後ろ姿がすきなのだ。だから普通のすきとは違うんだろうなって思う。私はそれで満足なのだ。

 それがどうしたことだろう、いま私はその憧れのひとと隣同士で座っていて、彼が吸うタバコの煙を頬に感じている。

「なあ亜久津、テニス部戻ってこいよ」
「いやだ!っつってんだろーが何回も!」
「ね!お願いちゃん!テニス部のマネージャーしてよ~キヨスミ一生のお願いっ!」
「え?ええ?な、なんで?」

 何故か私は亜久津と一緒にテニス部に勧誘される羽目になり(本当に偶然下足室を出るタイミングが同じで捕獲されてしまった)、同じベンチに座らされ、南と千石の勧誘を受けているところだ。

「しつけえなお前も」
「ああ、なんとでも言え。俺は諦めないからな。諦めない男、南だ!」
「俺も諦めないからね~!ちゃんっ」
「ええ、でも、」

 南も千石も良いヤツだし、十次とは知り合いだし、テニスもルールわかんないけど面白そうとは思うけど…あたふたして、うろたえていると、左手を取られた。…亜久津に。

「おら、行くぞ」
「え、ちょ、亜久津っ」

 どっひゃあ何なんだろう、この状況。亜久津に引き摺られて(きっと拉致されてるようにしか見えないんだろうな)(いや実際拉致されてるけど)辿り着いたのは、亜久津の喫煙ポイントらしい。外だけど、なんか狭いし暗い。

「…お前は、マネージャーやる気あんのか?」

 まさか亜久津から聞かれるとは思わなかった。私は今更緊張してきて、さっきより余計にどぎまぎする。

「テニス全然わかんないんだけど、い、いま前向きに検討中、」
「やるんだな?」
「い、いやだから、前む」
「…俺も戻る」
「え?」

 突然伸びてきた右手に驚いて思わず目を瞑ると、鼻を摘まれた。え?と思って目を開ければ亜久津が私の唇をむさぼる。すこし苦い。

「…お前、俺の事見すぎ。普段そんなくせに…こういうときこそちゃんと俺と目ェ合わせろ」

 どきどきしながら目を合わせると、ほんのすこし亜久津の口角が上がったような気がして、私は求められるまま亜久津に唇を許した。

20110809 真夏の暑い日に