眩しい日差し。夏の日差し。燦々と照りつける太陽。直射日光。まあ何が言いたいのかというと、とりあえず暑い。制服に裸足で、私たちは補習と言う名のプール掃除をさせられているのだ。私はたまたま提出物を出しに来ただけで、裕太に捕まった。可愛い後輩が呼びとめるからなになに?って近づいていってしまったのが敗因である。

「ああ、どうして私はこんなプールをお掃除しているのだろう」
「いいじゃないっすか先輩、たまにはこういうのも」
「裕太、ちゃんと授業受けてるの? なんでアンタ掃除なんかさせられてんのよ」

っていうかここはうちの学校のプールではない(ルドルフは勿論室内プールである)。近くにある公立小学校の、緑色をした水が入ったプールを、我々二人が必死になってデッキブラシをこすっている。だから外にあるプールがこんな水になるのかと正直関心してしまった。デッキブラシを握り、床をごしごしこする。何故二人でやっているのだろう、こういうのってもっと大人数でやるべきだと思うの。割に合わない。

「いや、観月さんが『たまには裕太くんも何か奉仕活動というものをしてはどうです?』とか言って、勝手に手配してきてて…」
「何で一人でやってるのよ。他の部員は?」
「他の奴らも適当にやらされてるみたいっす」
「…はあ、観月あとでしめる」

なんだ、観月の補習なのかよ。てっきり裕太が授業さぼったりしてるのかと思った。もう二時間か三時間かそのくらい経ったと思う。太陽が真上に来ていて、非常に暑い。裕太はジャージだが、私は制服なのである。汗びっしょりで気持ち悪い。まああとちょっとで終わりそうだし、私は観月への執念を燃やしながら、掃除を続けた。裕太はO型だけどこういうことは集中したら頑張るコなので、一生懸命掃除している。緑色の床も、本来の白い床になってきた。時々バケツの水を流すときに見えるホワイトが美しい。足の裏を見るのは非常に怖いけれども。

「よーし、そろそろ水で流すかー!」
「そうしましょう」

プールの中から出て、ホースを探す。ありがたいことに二本あって、お互いホースを持って対岸に分かれた。裕太が二つの蛇口をひねる。水がゆっくりと、長い管を動いていく。チャージはもうすぐ完了する、これからが私のターンだ!

「ははは! 休日の先輩を捕まえた恨み晴らしてくれるわ!」
「ちょ、何するんすか先輩っ!」

いやもうホース二本の時点でやるしかないよね。こういうことするために二本あるんだよね。私は裕太に向かって水を噴射した。それは見事な命中率で、裕太はびっしょびしょになっていた。非常に何か言いたそうな顔をしているが、私が先輩だからか我慢している様子だ。

「…はあ、もうなんで三年生ってこんなひとばっかりなんだろう」
「ほらほら、水の滴るいい男じゃん!」

私は裕太が顔を上げた瞬間を狙って、また水を噴射する。そしたら、流石の裕太もカチンときたらしい。

「あーもう知らねえ。いい加減にしてくださいよ!俺も反撃っす!」
「ちょ、ちょい待ち! 私制服だって!」
「んな事知りませんよ! いっけえ!」

もう後は小学生の遊びだった。一旦濡れてしまえば後はどうでもよくなってしまい(今日が土曜日でよかった)(まあなんとか乾くかなあ)、私たちはひたすら水を掛け合って笑いあった。水かけがエスカレートしていくと、プールの上に居るのがまどろっこしくなり(距離が遠いから命中率が下がる)、結局さっきまで掃除していたプールの中で一応掃除したものを流す体で、水遊びをし続けた。

「あーあー、びしょびしょ」
先輩のせいでしょ」
「裕太が私に掃除させるからでしょ」
「う」

結局長いことまた遊んでしまった。プールはおかげさまでピカピカになったので、まあ私の任務は達成した。はず。うん。ホースやらバケツやらブラシやらを片付ける。

「それにしても先輩がここまで子供っぽいことをするなんて思いませんでした」
「あれ、そう?」
「もっと大人っぽい人かと思ってたんで、意外です」
「そっかー裕太は大人っぽいほうがよかったのかー、ハジケたの失敗したかなー」
「なっ」

ふざけてからかうと、裕太はすこし赤くなる。あ、でももしかしたら日焼けのせいかもしれない。…まずい、日焼け止め塗ってたけど、あれだけびしょびしょになったら全部落ちたかもしれない。

「ね、私ひや」(けしたと思う?)
「それ以上は言わないでください」
「え?」

後ろから声が掛かる。びっくりした。だってその声は耳元で聞こえたのだ。ゆ、裕太?どうしたの?って聞いても答えてくれない。振り向くにも腕が腰に回っていて、顔の確認ができない。

「もうからかわないでください」
「ご、ごめん」
「すきです、いい加減気づいてください、どれだけ鈍感なんですか」
「それ、裕太に言われたくないよ」

私はずっと裕太がすきだ。隠してなんかいない。観月なんかとっくに気が付いているし(「いつになったらくっつくんですか」ってすごい言われる)、赤澤ですら陰ながら応援しているぞって言ってくるくらいなのに。気づいてないのはどっちだよ。

「…俺、ずっと先輩は赤澤部長がすきなんだと思ってました」
「ないない、あんなカレーオタクとかありえない」
「じゃ、じゃあケーキオタクは…どうなんですか…」

さっきまでの威勢はどうした。なんだかんだ言うくせに、最後まで自信がないところが可愛い。ま、可愛いなんて言ったら怒るんだろうけど、それもまた可愛い。

「なににやにやしてるんですか。襲いますよ」
「襲っていいよ」
「ちょ、もう」
「ケーキも裕太もすきだよ」
「…あーもう、なんで俺この人のことすきになったんだろう…」

プールの鍵を裕太が返しに行った。
私は渡されたジャージに着替える。「俺のでよかったら、着替えてください」って、自分の着替えを渡してきたのだ。いいに決まってるじゃないか。着替えましたか、と裕太が催促の声を上げる。更衣室を出ると、裕太が抱きついてきた。

「わ、こら、びしょびしょのくせに抱きつくな!」
「いいじゃないですか!嬉しいんですよ!俺の愛情表現じゃないですか!」
「じゃあ今度観月の前で抱きつ」
「それは却下です」
「えー、けち」
「…なんか今日先輩、ほんと子供っぽいですね」
「いいじゃないか!私の愛情表現だよ!甘えてるの!」
「も、もう、からかうのはなし!」

あはは、と笑う私の唇を、裕太の唇がかすめ取った。

20110728 ただのひどい妄想でごめんなさい 裕太だいすき!