気がついたらもう中学3年間が終わっていて、卒業式を形式的に迎えるという時間になっていた。昨日渡された写真、アルバム、春休みの過ごし方のプリント。…まだ先生達は私達のことが心配なんだね。そんなことを思いながら、眺めていたそれが、卒業ってことを実感させた。

 退屈な式典は寒さに凍えながらも無事終わり、私たちは晴れて中学を卒業した。会場でも、終わったあとの教室でも、私は泣かなかった。あんまり悲しいとも、辛いとも、そんな感情はなかった。いつもどおりの終業式みたいな感覚だった。また会おうね、受験受かってるといいね、そうやってみんなと一通り話してから、テニス部の部室へ向かった。

せんぱ…い…うわーーーん!」
「ほらほら、そんな泣かないの!もう、男の子でしょうが!」

 後輩が泣きついてきた。九鬼のあとに部長を継いでくれた大事なコ。ぎゅうと抱きしめて頭を撫でる。よしよし、大丈夫だよ、君なら柿ノ木を強く出来るから。いつから泣き虫が九鬼に似たのだろう。しばらくすると、彼は泣き止み、ありがとうございましたと花束をくれた。小さな花束だった。それがまた、身長の高い後輩に不釣合いだった。枝が一本入っている。桜の蕾だった。蕾の枝を選ぶところが、また粋なことしてくれるじゃない、と思う。九鬼の居場所を尋ねると、テニスコートにいるようだ。

 コート脇のベンチに部長さんは座っていた。泣き虫で早口言葉が大好きな、私の大事な大事なひと。私は黙って隣に座った。

か。卒業おめでとう」
「九鬼もおめでとう」
「…こうやって座るのは久々だよ、な」
「…うん」

 あの夏の日、負けたあの夜。私と九鬼は今みたいにここに座って、ただひたすら泣きじゃくる彼を、私が抱きしめていた。

「…おいおい、あん時と逆かよー、ほら、泣くなよ、な?」

 こうやって、九鬼と話すことももうなくなるんだ。テニス部のマネージャーじゃなくなるんだ。私は卒業して、が今度は全国へと、頑張って部を引っ張って行くんだ。
 さっきまで泣きたいなんてすこしも思ってなかったのに、こんなバカ部長の横に座っただけで、こんなに愛しくなるとは思わなかった。

「…頼むから、泣くなよ、俺だって、淋しい、」

 ぎゅっと抱きしめられたその腕の中で、私はあの夏を思い出してまた涙する。もう会えないのだ。そう思うと辛くてしょうがなかった。私は九鬼が好きなのをずっと隠している。

「…学校も大好きだし、あいつらもいい奴だ。だけど、お前と会えなくなるのが、一番淋しい、」
「すきだ、
「卒業しても、俺を、俺の傍にいてくれ…いてください…」

 耳元で涙ぐみながらの告白に、ふ、と吹き出してしまった。

「な、何で笑うんだよっ!せっかく俺様が告白してるっていうのにー!」
「あんたにしんみりしたムードは似合わないよ、やっぱり」
「ちくしょー、なんだよー!なんて、その、あの」

 私は彼の唇を塞ぐ。そしてすきだよ、と呟いた。

「あーもう!もう!くっそー俺もすき!すきです!ずっとすきでした!これからも宜しくお願いしますっ!」
「こちらこそ。…わー後輩みんなこっち見てるじゃん、九鬼がそんなでっかい声出すから…」
「な、だってさっきのヤツの頭撫でてただろー?!」
「見てたの? え、嫉妬?」
「うーるーさーいー!」
「うるさいのは九鬼でしょうが」
「あーやっぱり勝てねー!」

20110308 異色の九鬼夢で挑戦 
20110417 サイト掲載and提出
どうして九鬼だって言われてもなあ。。。九鬼がだいすきなんだ。。。
全国の九鬼ファンのために!