あれ以来、私は九鬼の保護者的立場にされてしまった。
山城くんをはじめ、みんな九鬼がらみで何かあったら私の元へ連絡を寄こす。あ、あの、私、帰宅部部長なんで!
そーゆーのに巻き込まないでほしいんですけども。


今日は睦月ちゃんと一緒にでろでろに甘いキャラメルマキアートを飲みに近くのコーヒーショップへ。
だらだらと世間話をしてしまい、帰るのは空が真っ暗になった頃だった。
バイバイ、と手を振ったそのとき、ケータイが鳴る。お母さんかな、と思ったらディスプレイは珍しい名前が表示されている。私は通話ボタンを押した。

「もしもし?」
「ああ、か。久方ぶりだな」
「うん、柳くんも久しぶり! 一体どうしたの?」


私に電話を掛けてきたのは柳くんだった。
柳くんのママと私のお母さんがちょっとお知り合いなので、子供同士も知り合いなのだ。
ちなみに柳くんは昔から賢い。こんな私が「蓮二くん」なんて呼べない。申し訳ないから。そして彼はスポーツも出来る。そういえばテニスをやっていたんだっけ。



「…念のため確認なんだが、の学校は確か、柿ノ木中、だった、な?」
「え? ああ、うん、そうだよ、あってるよ。柿ノ木です。なんかすみません
「いや、謝る事はない。むしろ謝るのは俺のほうだ」
「どういうこと?」

聞き返せば、言いづらそうな唸り声を小さく言った後、柳くんはさらに確認してきた。

「…で、それでだな、(ゴホン)、テニス部の、こうテンションの高い男子を知っているか?」
あー。ハイ、知ってます
「すまないが、彼を誰かに迎えに来て欲しいんだが、柿ノ木のテニス部員に連絡はつくか?」
「あー。私が行きます…場所を教えてくれる?」
「いいのか?すまないな。 場所は…」


場所を聞き、愕然とした。
あのバカな部長は氷帝学園に居るらしい。そしてまた早口対決をしているらしい…あの柳くんを巻き込んで!
でも柳くんなら『うむ、興味深いな』とか言って楽しんでデータ収集してそうだ。その様子が目に浮かぶんですけど。

口の中が甘ったるい。
若干のイライラと特大の不安を抱えながら、私は何故か九鬼を迎えに、氷帝に行くのだった。





<樺地と早口言葉編>
是非ここで、CDを聞いてから続きをどうぞ。






金持ちな学生列車に乗って、何とか辿り着いた氷帝は巨大だった。
部外者が超浮いている。うわああああ、やだなぁあああ。この中で探すのか…とりあえず柳くんに電話する。
場所はテニスコート付近、と言われ、近くのお嬢さんに聞くと「アナタも跡部様のファンなの?!でもね、今行っても人が多くても見れないわよっ!」と教えてもらった。あああありがとうごさいます、というと、お嬢さんは「いいのよ!みんなの跡部様だからっ!」ときゃあきゃあして去って行った。
…わからん。わからんぞ。なんなのこの学校。

とりあえず騒がしい方へ向かうとテニスコートはあった。
そしてギャラリーの数に引きました。なんだあれは…ムスカさんへ、あなたを名台詞をここで言わせてください。



「人が『ゴミの様だ、とお前は言う。違うか?』



「ぎゃー!!」
「そんなに驚くことはないだろう。久方ぶりだな、
「やや柳くん…お願いだからその背後からの登場止めて…心臓に悪い…」
「そうか。それはすまなかった」
「あと人の心を読むのもやめてください」
「・・・ああ」


うわ、完全に納得してない顔をしていらっしゃる。
柳くんの機嫌が悪くなると、何されるか分からないので話をそらそうと頑張る。


「と、とにかく!九鬼は?」
「あ、ああ。(クキ?そこの君のことか、)彼ならすぐ目の前にいるが」




完全に今の応酬見てたはずなのに、九鬼貴一さんは静かーに押し黙ってうずくまってこっちを向いている。
状況が全く分からないので、柳くんに目で質問すれば、彼は冷静にこう答えた。

「先程樺地という氷帝学園テニス部の2年と早口言葉で対決したのだが、結果はドローになり、最後に彼は名乗ろうとしたのだが名前が言えなくてとても困っているようだ」
「はぁ」
「コメントはそれだけか」
「ええ」
「おい、」
「ああ、柳くんごめんね。めんどくさいのに巻き込んでしまって…ちゃんと連れて帰ります」

今度は柳くんが状況説明を求めるような眼差し(?)を送ってきた(気がする)が、九鬼の説明はめんどくさすぎるので省略することにした。







くきは こちらを じっと みている!





とりあえず九鬼と同じ目線になるために、彼の近くに座る。
九鬼、帰ろう?と言えば食いしばってた奥歯をさらにかみしめ出した。そしてすぐに、目に涙を浮かべ始めた。

「う、っ、…俺はっ…俺はっ……」
「はいはい、私はあんたのこと知ってるから。ね?帰ろうよ」
「…や、だっ」
「残っててもしょーがないでしょう?ほーら、だだこねてないで。かーえーるーよ」



全く、強情なヤツだ。
一向に動こうとしない。泣きそうな顔が、本当に今にも崩れそう。私は九鬼の頭をよしよしと撫でる。
後ろから柳くんのため息が聞こえた。
ここは人様の学校だ。氷帝なんて、知り合いはいない。一刻も早く私は帰りたいのだ。いっぱいいるお嬢さんが怖すぎる。

「あ〜もう。九鬼、じゃあ私は帰るよ」

そう言って、立ち上がろうとした瞬間だった。



「そこの女!」




呼びとめられた。
ここには柳くんと九鬼しかいないので、女とは確実に私を指す。

「ああ、すみません、今帰りますんで」
「…俺に用があるのか?」
「へ?めっそうもございません。ほんとごめんなさい。今帰るんで」

右目に泣きボクロのあるお兄さんが、上から物言いしてきました。すみません帰りますんで…。
繰り返しそう言えば言うほど、お兄さんの眉間にはシワが入る。お、怒らせてしまったのかもしれない…!









「――どうやら、跡部の眼に叶ったようだな」

柳くんは微笑をたたえている。
え?え?
跡部、ってさっきお嬢さんが集ってたあの…? え? 何で?


「俺様に興味がないとは…良い度胸だな、女」


そしたらお兄さんもそばに座ってきた。
えええええ何でですか
お兄さんは真っ直ぐ私を見つめてくる。







「お前、俺のおん『やめろっ』





口をはさんだのは、まさかの九鬼だった。

「ああ?なんだお前? …確か、どっかで見たような顔だが」
、帰るぞっ!」




突然生気を取り戻した九鬼は、私を無理やり立たせて、帰ると言いだし、私は柳くんにまたね〜とも言えないまま、柿ノ木まで引きずられ帰ることになるのだった。






SUBTERRANEAN



ROMANCE 2







20091018 まさか続編書いちゃった。きいちだいすきだよ!