――君のことキライになれたらいいのに

 そんな自分勝手な考えが頭に浮かんだ。今日はお祭りで、浴衣を着たひとたちでとても賑わっている。私もそのひとり。慣れない姿はひどく歩きづらいけれど、楽しいからいい。夏祭りの特権だ。暑い夏に何故、ひとの集まるようなことをするのか分からないけれど、毎年浴衣を着て出かけている気がする。私の浴衣は白地だ。暗い夜でも私を見つけやすいように。…いや、本当は違う。似合うと褒められたから浮かれているのだ。祭り会場は暑い。団扇でふわふわと風を送りながら、ちらりと横目で浴衣姿を盗み見る。すると何故か視線があって、私はふいに目を逸らしてしまう。それでも彼は何も言わずに、あっち、と指差して私を先導する。花火が上がり始めた。

 どうして私は君の横にいて、どうして一緒に花火を見ているのだろう。もうきっと会えないのを分かっているのに。
 ねえ、そうやってやさしくしないで。辛くなるの、分かってるから。ひと夏の恋にいつまでも浮かれていられるほど、私は子供ではなくなってしまった。
 それでも差し出された手を取ってしまうあたり、私はまだ大人になりきれてないんだと思う。

 たくさんのちょっとした気遣い。君にとっては当たり前なのかもしれない。でも私にはそれが単純に嬉しい。
 ここは穴場なんだよ、と君が教えてくれた、少し高台の石灯篭に腰かけて、夜空をハイジャックするような光を見つめる。流星群は見たことがないけれど、こんな感じなのかな、って思った。

 花火は一瞬で破裂し、消える。

 君の視線の先には光る空しか映っていなくて、視界に入らない私は、ただ空を見つめる君を見つめ続ける。すべてお見通しなんだろう。私が泣きそうなのも、もうきっと会えないって考えていることも。だからこうして今日はずっとそばに居てくれる。彼はやさしすぎるのだ。ときおり交わすそのことばのひとつひとつが大事で、これから何年も忘れられない思い出になっていく。すきだよ。きっとそれもお見通し。でもお互い言わなかった。

 来年の今は、私はここにいなくて、君もきっとどこか別の誰かと笑っているんだろう。私の存在は、溶けた氷水のように、白く、透明なら、それがいいと思った。

20110705 去年書いてたものの焼き直しですすんません