常に放置されて早三週間。
日常に変化がない、というか退屈なのだ。
立海では毎日毎日、真田と赤也ちゃんのプチ喧嘩とか、幸村のブラックなイタズラとか、仁王の「プリッ」とかでなんだかんだ忙しかった(後処理に)。
なーんにもやることがないので、本当に暇なのだ。

…よし、ここは三成さんと遊ぼう。うん、それがいいよね!

珍しく囲炉裏にひっついている三成さんを見つけた私は、よそよそ近付き、向かい側に座る。



「とーの!との!とのーってばー!」
「‥‥‥‥‥‥」

あ、眉間に深いシワが!

「とのー」
「‥‥‥‥‥‥」
「ねー、とのー」
「‥‥‥‥‥‥」
「とーのとのとの三成こ」
「ああもう喧しい!姦しすぎるのだよ貴様はっ!大体普段から俺のことを『殿』とは呼ばぬくせに一体何だ!」
「いーじゃん、もう暇だし寒いんだよー」
「答えになってないぞ。もういい。寒いのならば左近にでもくっついていろ!俺にまとわりつくな!目障りなのだよ!」


思いっきりイライラしている三成さんは立ち上がって私に近付き、渾身の力で私を鉄扇でぶった。八つ当たりだ!

「な、殴ったね!親父にもぶたれたことないのにっ」
「黙れ」

ばちん。

「二度もぶった!」

痛い!と頭を抱えたら、頭上から鼻で笑ってくる佐和山城主の姿。超・御満悦だな!!
でも私は普段から真田副部長の鉄拳制裁を受けているから、こんなことじゃへこたれないんだから!
キッ、っという表情を私は三成さんに向ける。

「そうか、そんなにぶたれたいのか。貴様にはそんな趣味があるのだな。良い、いつでも可愛がってやろう。今宵俺の部屋に来るか?」


出た、ダーティなスマイル!
一瞬部長の姿を垣間見た気がする。

ちょっと余計に背筋が寒いんだけど!ぎゃあ!助けてお父さん!


「……それは止めてほしいのだが」
「お父さん!」
誰がお父さんだ。お前が娘になるのは色々と困る」
「すみません」

救世主・柳蓮二が現れた!▼
勢い余って『お父さん』と呼んだら怒られました。


「…蓮二か。勿論冗談だ。こんな娘を苛めても仕方ない」
「その割には少し楽しそうだったが、どうなんだ三成」
「フン、興味ない」

頭上で交わされる会話を呆然と見つめていると、柳が入って来た扉から冷たい風がびゅっと吹いた。おお寒い。
その拍子に盛大なくしゃみを三成さんがした。


「ぎゃあ!ちょっと三成さん、私に向かって飛沫飛ばさないでくださいっ」
(ずるずるっ) 黙れ、小娘が」

そう捨て台詞を私に吐き、三成さんは片手を挙げて帰って行った。
残された柳は私を見て、思い出したように屈み、どこからか懐紙を取り出した後、私の顔をそれで拭う。




「随分と酷い有様だな」

色々と聞き返したいことは山々だけど、若干傷付いたので、私は黙ってむくれたまま、柳のされるがままになっていた。

「湯殿へ行ってくるといい。冷えているようだ」
「…ありがとう」



私の前髪をかき上げるその指先も、冷たかったのだけど。
その優しさに甘えることにした。




かぜまねき



(あいのてのひら あたたかく)













20090731 オイオイオイ、今は真夏だっての!