「…今挙兵して勝てる確率は僅か23%……ああ、すまん、二割といったところだ」
「な、何なのだ貴様は! 何処から現われた?! 家康の忍か?!」

柳の一言に驚き、扇を構えるのは、綺麗な顔をした青年。
まあ驚くよね。背後から急に現れたもんね。あーええと、ごめんなさい。


「申し遅れた。俺はお前が生きている時代から四・五百年経った日ノ本の者だ。名を柳蓮二と言う」
「…で、そこのお嬢さんは?」
「え?あ、私はです。柳くんと同じ時代の者です」
「ふぅん、そうかい。俺は島左近。この方は我が殿、石田三成様だ」
「さ、左近!何を勝手に喋っておる! 家康の隠密かもしれぬのだぞ!」

余りにも非現実な出来事が起こった。
私と柳はどうやら、戦国時代、あの関ヶ原合戦前の西軍へタイムトリップしたらしい。
目の前にはあの石田三成と島左近。御本人が言うんだから間違いないだろう…多分。100%の確証は無いが、柳が何もツッコまないからどうも御本人らしい。石田三成が美人で吃驚だ。あと左近さんが私達に普通に接するのが吃驚だ。


「まあまあ、殿。こいつらの服見たら分かるじゃないですか。隠密がこんな山吹色や真紅の服を着ますか?それにこの紋様、今の日本のモンじゃあなさそうだ」

何か派手な装いですみません…と微妙に申し訳なくなった。だって部活中だったんだもん。
私は1・2年のマネージャーなので、型落ちの赤ジャージで、柳はレギュラーの黄色のジャージを着ている。まあびっくりする色づかいですよね。“R”のロゴも知らんですよね。多少は南蛮貿易してただろうけどさ。






もとの始まりは、あの日だった。
真田が奇声(「きえええええい!」)を発しながらテニスをしていた。しかしながらこれは日常。違ったのは、それが氷帝との練習試合であったということ。
パチン、と指が鳴り、跡部が登場したその時、空から何かが落ちてきた。…クナイ?

「痛ってーな!誰だッ」
我は風魔…混沌を呼ぶまがつ風なり……

黒っぽい格好の多分男の人が、キングに降り立った。跡部は激しくしなった。弓なりとは正にこのことだ。
うわあ妖怪みたい、と私は荷物を運びながら思ったが、きっと氷帝の奇抜なパフォーマンスだ、と無視して仕事を続ける。
柳にスコアブックを渡そうとして、彼に声をかけた。

「柳、さっきの試合のスコア……」

言葉を言い終わる前に、私は闇に呑まれた。


気が付いたら柳が側にいた。というか柳の腕の中にいたというのが正しい。
びっくりして跳ね起きると、目が醒めたか、と頭を撫でられた。や、柳が優しい……!これは何か良いデータが取れたに違いない。弱みを握られたかもしれない。後のことを考えると泣きそうだ。


「先程町人から面白い話を聞いた。行くぞ」





……何処へ?



だが上機嫌な柳(傍目普段と変わらないが、毎日一緒に居るとこの微妙な変化に敏感いや過敏になる)に質問などしたら、長ーい回答が返ってくる。なので私は我慢して、柳の後をついていった。

そしたらどうだ。
派手な兄ちゃんとロン毛の兄ちゃんが何か話している。柳は彼等を見つけると、ザッと近付き、先程の言葉を言ったのだ。

そして冒頭に戻る。



「と、兎も角何処かへ行け!行かぬなら斬るぞ」

ちょ、待ってくださいよ!と言おうとすれば、横で柳が開眼したので何も言えなくなりました。



「いや、待ってください殿。……アンタ、さっき『今挙兵しても勝率2割』って言ったよな」
「ああ。言ったぞ」
「何故そんな事が分かる」
「俺は未来から来た。だからこれからのお前達の最期を知っている」


柳の言葉に、三成さんは拳を握り締めた。わ、何か可哀相。


「…そうは言われても」
「『そうは言われても』納得出来ない、とお前は言う。違うか?」
「アンタ、未来が読めるのかい?」
「あくまでも予測だ。先程のお前の言葉など想像するに容易い。それに一応、これでも『参謀』と呼ばれている」

先程まで拳を握り締めていた三成さんが柳に問うた。


「ならばこの負け戦、どうすれば勝てる?」


横で左近さんが驚いている。確か石田三成って強情だったもんね。その人が異邦人紛いの人に意見を聞くなんて…それほど勝ちたい戦って訳ね。

「…俺達を豊臣軍へ入れてくれるなら、幾らでも知恵を貸してやる」

え、今、柳『俺達』って言ったよね。
私も?

「…俺を、豊臣を裏切らぬと誓えるか」
「お前達の義に誓ってやる」
「ならば……来い」




ええええええちょっと三成さん許しちゃうの?!
ほらそこ左近さんも満足そうに腕組みしないの!



「良かったな、。これで暫く食事の心配は要らなさそうだ」

食事より命の心配してくださいませんか蓮二さん。






覆されたる陰謀


ちょ、このままじゃ歴史変わっちゃうぜ?!






20080116 殿と蓮二。勢いでやった。後悔はしていない。