安形課長は未だに出勤停止を食らっているらしい。そのため作業はわたし一人で行っている。救命救急とあって、かなり余裕のあるスケジュールを組んでいたけれど、結局一人でやってるからカツカツになっている。早く出勤してくれ課長…。わたしの作業は早朝6時から始まり、昼間の3時には終了する、を繰り返している。作業効率を考えた結果でもあり、そして休憩をお昼にするためだ。勿論食堂でご飯が食べたいから。



さん!」

本日の日替わりランチ・生姜焼きを頬張っていると、奥から声が掛かる。田口さんだった。
トレーを持って、こちらへ歩いてくる。私は急いで口の中にあるものを咀嚼した。

「ここ、いいですか?今日どこも空いてなくて」
「ええ、どうぞどうぞ」
「じゃあ僕も」

いつの間にやら来た白鳥さんも加え、3人でお昼ご飯。
人がたくさんいるところなのに、特にしゃべることもないから、今日はとっても久しぶりに人と話す気がする。
そういえばこの白鳥さんというひとは厚生労働省のお偉いさんだそうで、医療関係者ではないという私の勘は当たっていたのだった。

さん、毎日朝早くから来てるそうですね」
「大体朝6時から作業してるんで」
「早起きだねえ。家は近いの?」
「ええまあ」

この仕事のために、会社が近くにウィークリーマンションを借りてくれている。空きがなかったから無駄に広い家だ。 とはいえ、家に帰っても基本寝るだけなので何も使っていないに等しいけど。

「そっか、いいこと聞いたな」
「えっ」
「なんでもな~い」

田口さんが白鳥さんをしかっている。何言ってるんですかもう、そう言ってもこのひとはへらへらと笑っている。何だか良いなあと思う。気の許せるひとが近くに居るというのは。今の私にはそういうひとが必要なのだと自覚している。

ちゃん、悩みがあるんでしょ」
「え、」
「何でも言ってくださいね。話を聞くのが僕の仕事ですから」
「ありがとう、田口さん」

話を聞くのが仕事。そんな人に話すのとはまた違うのだ。
気を許したい。力を抜きたい。この張りつめられた雰囲気が、わたしには耐えられない。医者ってすごいんだな、毎日そう思う日々だ。特に救命救急は、息が詰まって仕方ない。わたしに霊感があるなら、きっといっぱいのひとたちをここで見ることになるのだろう。

「…ごはん、食べ終わっちゃったんで、先に行きますね」
「ああ、すみません。こちらこそ押し掛けちゃって」
「いえ、今日は話せて嬉しかったです」

午後からは前線のシステムを入れ替える。そう思うとドキドキして、手が震える。
緊張した顔を隠すように、わたしは彼らの前から逃げたのだった。

つづく→
20140206 みじかめ