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「門発生 門発生 大規模な門の発生が確認されました」パジャマでぐうぐう寝ていた昼間。わたしは非番だった。穏やかな昼下がり、近界民の大規模侵攻が始まった。
緊急アナウンスを聞いて、わたしは飛び起きる。ついに始まった。わたしは急いで技術者の制服を来て、コントロールルームへと向かう。
「忍田さん!」
「は通信設備を見ていてくれ。今回は隊員の通信が命だ」
「了解」
急いでオペレータールーム上層、通信室に待機。通信設備は大きく分けて、トリオンを使ったものと、機械を使用するもののがあり、わたしはトリオン通信を自分を媒介にすることで精度をあげていた。
「さん聞いてますか? 諏訪さんが…!」
媒介者は会話のすべてを聞いている。
その悲壮な声はしっかりと、わたしの耳に届いた。堤さんの声。わたしは血の気がなくなった。諏訪さんがキューブ化しただなんて、笑えない冗談だ。
「、聞こえるか」
「はい忍田さん」
「研究室を準備しろ。技術者総出で諏訪のキューブを解析する。通信は機械に移行、オペレーターはバックアップを」
「了解」
わたしは通信室を出て、ラボへと走る。現在分かっている情報は、トリオン体をそのまま立方体状に変形させるということと、侵攻して来ているのはアフトクラトルであるということ。生体反応が消えていないことから、おそらく諏訪さんは死んでいない。でも取り出し方が分からない。とにかくキューブの受け入れ態勢を全速力で整える。
「爆撃型トリオン兵接近! 衝撃に備えろ!」
恐ろしい爆音とともに、本部が揺れる。イルガーが本部に向けて自爆を開始している。技術開発室も大きく揺れた。
「装甲の耐久度は?」
「あと一発まではなんとかもたせる!」
そんな会話が聞こえる。後続はあと一回の衝撃で済み、太刀川さんが斬ってくれたようだ。それでもこの本部の壁は脆くなっていて、あと一回でも爆撃されたらおしまいだ。こっちもヤバい。本部がやられたら諏訪さんどうこう言ってる場合じゃなくなる。
「さん!!」
そんな中で、本部に堤さんと日佐人くんが戻って来た。手には諏訪さんのキューブがあり、わたしはそれを大切に受け取った。
「ありがとう、諏訪さんは何としてでもわたしが助けます」
「はい、さん」
「指示は忍田さんに聞いてください。わたしは解析に回ります」
「諏訪さんを頼みます」
「もちろん」
大口を叩いたはいいものの、諏訪さんをどうやって元に戻すかはさっぱり分からない。それでもやるしかないのだ。わたしたちが。
駆けつけたリーダーたちと、キューブを解析にかける。外は固く、攻撃は一切寄せ付けない。正しい解き方をしない限り、ビクともしない。つまり解除には何かしら外的要因があるはずだ。
「っていうのが俺たちの意見だが…キーになるのが何なのか、さっぱりだな」
正直お手上げだった。街全体が襲われているという、非常事態で、頭が回転しない。
…トリオン体、もしくは人体そのものをキューブ状に圧縮させる。そのためには、確実にトリオンを使って圧縮をかけるしかない。それを解凍するには?
「トリオンを流し込む、ってのは?」
「! なるほど、、出番だ!」
諏訪さんのキューブに、わたしのトリオンを全力で流し込む。内部がゆっくりと、あったかくなってきた。
「正解、だ!」
リーダーが喜びの声を上げたとき、警報がけたたましく鳴った。ボーダー内部に人型近界民が通気口から侵入したらしい。
「技術者は全員護身用トリガーを起動して退避せい!研究室は放棄して構わん!いいか絶対死ぬなよ!」
そんなことを言われても、諏訪さんを放っていける訳がない。わたしはキューブを持ったまま、息を殺す。敵には探知能力はないようで、黒トリガーはわたしの居る部屋を素通りした。その間もわたしは最高密度のトリオンを流し込み続ける。キューブは段々と熱を帯び始めた。わたしの耳に、緊急通信が入る。
「、どこにいる!」
「ラボです」
「…諏訪もか」
「はい」
「諏訪隊、聞こえるか、人型と遭遇しないようにラボに向かえ」
「了解」
忍田さんの指示で、諏訪隊がやって来る。キューブはまだそのままの形を保っていて、熱以外の反応がない。この解き方もはずれなのだろうか。
「すわさん、おねがい、もどって、」
泣きながらキューブに話しかける。わたしは座り込んで、ぼろぼろと泣いた。
「ちゃん、」
堤さんが部屋に入って来たとき、高熱を持ったキューブは突如膨張し始め、すっと中から諏訪さんが出てきた。まるでいままで眠っていたみたいな表情をしている。
「諏訪さん!」
後ろから追いかけてきた日佐人くんが、キューブから解かれた彼を支える。良かった、ほんとに、良かった。わたしの涙は安堵の涙に変わった。
「どうした、諏訪は?」
「無事です、元に戻りました」
「よくやった!早速で悪いが、 諏訪隊は黒トリガーのもとへ、は急ぎ通信室へ。通路の開閉信号がやられたようだ」
「了解」
わたしはその場を二人に任せ、涙を拭いて、通信室へ走る。泣き顔は諏訪さんには見せたくない。いくら嫌われていようとも、わたしは諏訪さんがすきなのだ。